09/12/2024
久保田哲子さんの第三句集『翠陰』が刊行となりました。
久保田さんは北海道札幌市在住。
鮫島賞・北海道新聞俳句賞を受賞した前作『青韻』から
17年ぶりの新句集です。
10代の時に俳句に出合い、「白魚火」「梓」を経て、
現在「百鳥」同人。西本一都の「足もて作る」、
加藤楸邨の「真実感合」の理念に導かれながら、
ひたむきに詠み続けてきた久保田さん。
本書には、北国に根を下ろして生きる人の、
いのちと自然への誠実な眼差しがあります。
帯には、堀切克洋さんから心がしんと静まるような
素敵な一文をいただきました。
〈還らざる手紙のやうに冬鷗〉
「一枚の便箋のような冬鷗が翔び立つ。
それは、遠き日にすでに失われてしまった、
読み返したいと切に願っても叶わぬ手紙だ。
古りゆくものに囲まれる生活のなかで、
作者の追想する過去は、
降り積もりはじめる初雪のように新しい。」(帯より)
自選句から、いくつか作品をご紹介します。
白亜紀の海泳ぎきし春の夢
流氷の行方をおもひ青き踏む
船虫の全身眼なり走るなり
一舟のやうに家あり蕎麦の花
あれほどの雲雀放ちし枯野かな
冬木立詩人の柩あるごとし
昆虫学者の家は青葉の中にあり
寒満月われも一樹として立てり
本売りし日のしづけさよ薄氷
駅員の燈を消しゆけば雪をんな
レトロモダンな装丁はTSTJの奥村靫正さん。
今回、久保田さんの長女・翠さんにも
ディレクションに加わっていただきました。
「翠陰」は緑陰を表す夏の季語。と同時に、
作者にとっては、掛けがえのない家族への
思いがこめられた句集名。
大切な一冊を作らせていただいたことに感謝します。
句集『翠陰』は書店、Amazon等で発売中です。
よき読者と巡り合えますように。
https://saku-pub.com/books/suiin.html
https://www.amazon.co.jp/dp/4911090197